漢方治療エビデンスレポート
日本東洋医学会EBM委員会エビデンスレポート/診療ガイドライン タスクフォース
9.
循環器系の疾患
文献
佐々木淳, 松永彰, 楠田美樹子, ほか. 本態性高血圧症に対する大柴胡湯および釣藤散の
効果. 臨床と研究 1993; 70: 1965-75.医中誌 Web ID: 1994042619 1. 目的
本態性高血圧に対する大柴胡湯と釣藤散の有効性と安全性 2. 研究デザイン
ランダム化比較試験(封筒法) (RCT
-
envelope) 3. セッティング5施設 (大学1施設、医院4施設) 4. 参加者
本態性高血圧で1) ~4) に該当するもの。1) 不定愁訴がある高血圧患者、2) 他の降圧剤 で血圧コントロールが不十分な患者、3) 軽症高血圧症、4) 医師が適当と判断した患者 83名
5. 介入
実証
Arm 1: 32名 ツムラ大柴胡湯エキス顆粒7.5g/日14名 Arm 2: 非投与群15名
虚証
Arm 1: 62名 ツムラ釣藤散エキス顆粒7.5g/日24名 Arm 2: 非投与群30名
投与期間: 8週間
6. 主なアウトカム評価項目
血圧、脈拍数、自覚症状を3段階 (改善、不変、悪化) : 頭痛、頭重感、めまい、肩こり、 動悸、のぼせ、イライラ、耳鳴り、不眠、不安・焦燥感、四肢冷感、四肢のほてり、
四肢のしびれ、食欲不振、便秘、下痢、吐き気、口の渇き、目の疲れ、疲労感、全般 改善度、臨床検査値
7. 主な結果
実証Arm 1で8週で非投与群に比べ有意に拡張期血圧が減少。虚証Arm 1で血圧が有
意に減少したが、非投与群に変化はなく、群間は変化なし。自覚症状では虚証 Arm 1 の耳鳴りが有意に改善した。全般改善度は虚証Arm 1でのみ改善。臨床検査値では正 常範囲内の変動のみであった。
8. 結論
虚証の群において釣藤散は有意な降圧作用を認める。 9. 漢方的考察
問診表で実証と虚証に分類した評価で、漢方的な考えを取り入れてそれぞれに薬を対 応させた評価である。
10. 論文中の安全性評価
Arm 1は15名、Arm 2は26名で評価。大柴胡湯投与で水様性下痢があり中止が1名。
釣藤散で胃部不快感、腹満感出現し中止したものが1名であった。 11. Abstractorのコメント
漢方的な体質 (証) を取り入れた介入を高血圧患者に行った貴重な報告である。今回は 虚証患者に対する釣藤散の降圧効果は有意に認められた。このことは、実証の大柴胡 湯の効果は明らかでなく、他の報告での実証か中間証に用いる黄連解毒湯の直接の降 圧効果がなかったことと一致する (荒川規矩男, 猿田享男, 阿部圭志, ほか. TJ-15ツムラ
黄 連 解 毒 湯 の 高 血 圧 症 随 伴 症 状 に 対 す る 二 重 盲 検 比 較 試 験. 臨 床 と 研 究 2003; 80:
354-72. 医中誌 Web ID: 2003184342 MOL, MOL-Lib) 。虚証の患者のほうが、より血圧に
症状が相関するのかもしれない。もし、証を考慮しなければ効果が出なかったのか知 りたいところである。また、釣藤散が耳鳴りに有効であることは、他の報告でもあり、
今回の評価で虚証ではさらに有効性は確かなものになったと考えられる。 12. Abstractor and date
並木隆雄 2008.12.29, 2010.1.6, 2010.6.1